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東京地方裁判所 平成7年(ワ)7070号 判決 1999年5月14日

東京都港区赤坂二丁目一四番三三号

原告

有限会社赤坂ふじや

右代表者代表取締役

小山成子

右訴訟代理人弁護士

新居和夫

東京都新宿区若葉一丁目二〇番地

被告

三田兼孝

右訴訟代理人弁護士

伊藤次男

主文

一  被告は、原告に対し、金一七七三万二三六二円並びに内金九二四万六六〇〇円に対する平成三年一一月一三日から支払済みまで年三・五パーセントの割合による金員及び内金二九〇万六三九九円に対する平成七年四月二八日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

二  被告は、「赤坂三田ビル藤会館」及び「三田ビル藤会館」の各商号を使用してはならない。

三  被告は、東京地方法務局港出張所平成六年七月二五日受付の「赤坂三田ビル藤会館」及び「三田ビル藤会館」の各商号登記の抹消登記手続をせよ。

四  原告のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、これを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

六  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は、原告に対し、金二七二八万二三六二円並びに内金九二四万六六〇〇円に対する平成三年一一月一三日から支払済みまで年三・五パーセントの割合による金員及び内金一二四五万六三九九円に対する平成七年四月二八日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

2  被告は、「赤坂三田ビル藤会館」及び「三田ビル藤会館」の各商号を使用してはならない。

3  被告は、東京地方法務局港出張所平成六年七月二五日受付の「赤坂三田ビル藤会館」及び「三田ビル藤会館」の各商号登記の抹消登記手続をせよ。

二  被告

1  本案前の答弁

本件訴えを却下する。

2  本案の答弁

原告の請求をいずれも棄却する。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  請求の趣旨第一項について

(一) 原告の三田千鶴(以下「千鶴」という。)に対する債権

原告は、千鶴に対し、次のとおりの債権を有していた。

(1) 金銭消費貸借に基づく債権

原告は、千鶴に対し、昭和四九年から、多数回にわたり、金銭を利率年三・五パーセントの約定で貸し付けた。

同人に対する貸付金の残高の変動は、別紙「貸付金推移表」記載のとおりであり、その詳細は別紙「貸付金内訳書」のとおりである。

同人が死亡した当時の貸付債権残高は、合計三六九八万六四〇二円である(ただし、後記(4)記載に係る仮払金債権に振り替えた分を除く。)。

(2) (1)に対する未払利息債権

前記(1)記載の債務についての未払利息は、別紙「未収入金の内訳」の「左の内貸付利息未収分」欄記載のとおりである。

同人が死亡した当時の残高は、合計二二三一万七四五四円である。

(3) 立替金返還債権

原告は、千鶴に対し、別紙「立替金明細書」記載のとおり、金員を立替え支出した。

同人が死亡した当時の残高は、合計八九〇万四二五八円である。

(4) 仮払金返還債権

原告は、昭和五〇年度までに千鶴に対して貸し付けた貸付金のうち、三五一万七〇八〇円を、昭和五一年二月二八日付で、仮払金として処理した。また、原告は、千鶴のために、千鶴が支払うべき平成三年度の固定資産税分六一八万九一三一円を立て替え支払ったが、仮払金として処理した。

原告は、平成三年中に千鶴に対して支払うべき地代一一か月分六六七万〇五六七円と平成二年度の未払地代三一万四三〇二円の合計六九八万四八六九円を仮払金返還債権と相殺した。

したがって、千鶴死亡時の仮払金残高は、二七二万一三四二円である。

(5) 未払家賃債権

原告は、昭和五〇年九月ころ、当時原告の代表取締役であった千鶴に対し、別紙物件目録一、二記載の土地(以下「本件土地」という。)上の同目録三記載の建物(以下「本件ビル」という。)の七階部分の一部(一八五・〇四平方メートル)を、賃料を月額二〇万円として、貸し渡した。なお、期間は、千鶴の一代限りであり、右契約は、同人の死亡により終了した。

未払家賃債権残高は、別紙「未収入金の内訳」の「左の内家賃未収分」欄記載のとおり、合計三八二〇万円である。

(二) 相続

(1) 千鶴は、平成三年一一月一二日、死亡した。

(2) 千鶴には、被告、訴外三田孝幸、同三田芳彦、同小山成子(以下「成子」という。)の子がいた。

(3) 右四人が、亡千鶴の財産を均等に相続した。

(4) したがって、原告は、被告に対して、次のとおりの債権を有する。

<1> 金銭消費貸借に基づく債権 九二四万六六〇〇円

<2> <1>に対する未払利息債権(千鶴死亡時までの分) 五五七万九三六三円

<3> 未払家賃債権 九五五万〇〇〇〇円

<4> 立替金返還債権 二二二万六〇六四円

<5> 仮払金返還債権 六八万〇三三五円

2  請求の趣旨第二項、第三項について

(一) 原告は、昭和三四年三月三一日、化粧装飾品等の販売、飲食店の営業、不動産貸付業等を営業目的として、住所地において設立された会社であるところ、営業表示として「赤坂三田ビル藤会館」及び「三田ビル藤会館」の各商号を使用してその営業を行っており、その商号は広く認識されている。

(二) 被告は、原告の取締役として在任中、東京地方法務局港出張所において平成六年七月二五日付をもって「赤坂三田ビル藤会館」及び「三田ビル藤会館」の商号の登記手続をした。

(三) 被告は、右登記を原告の営業を妨害する意図もしくは嫌がらせの意図の下にしたのであり、いまだ右商号を用い原告と同種の営業を同一地域で行い、原告の営業上の施設及び活動と混同を生ぜしめているものではないが、将来このような行為をすることによって原告の営業上の施設である店舗、もしくは営業活動と被告のそれと混同を生ぜしめるおそれがあり、かつ原告はその営業上の利益を害されるおそれがある。

(四) よって、商法二一条、不正競争防止法二条一項一号、三条に基づき、右各商号の使用の差止めと抹消登記手続を請求する。

二  本案前の答弁

1  成子は、原告の代表取締役ではないから、本件訴訟は、原告の適法な代表者によって提起されたものではない。

2  仮に、成子が、原告の代表取締役であっても、本訴は有限会社が自己の取締役を被告とする訴訟であるにもかかわらず、有限会社法二七条の二の所定の手続が採られていない。

三  本案前の答弁に対する認否及び反論

1  成子は、原告の代表取締役であるし、有限会社法二七条の二の手続が採られている。

2  原告の商業登記簿謄本の記載から明らかなように、成子は、昭和四六年八月三一日付で原告の取締役に、平成五年四月二五日付で代表取締役に就任している。被告自身、これまで原告に対し、成子を代表取締役と認めた上で、社員総会決議取消請求訴訟(東京地裁平成六年(ワ)第一四三一九号)、報酬請求訴訟(東京地裁平成六年(ワ)第一六一九五号)等を提起している。また、被告は、平成三年六月二八日から解任された平成七年六月三日までは、原告の取締役の地位にあり、この間、原告の取締役及び社員として原告の取締役会及び社員総会に出席していたにもかかわらず、成子の取締役、代表取締役としての地位について何ら異議を述べたこともなかった。

3  原告は、平成七年二月二六日開催の第六〇回取締役会において、被告出席の下、平成七年三月一一日開催の臨時社員総会召集の件、及び右総会の日的事項として、被告に対する貸付金返還、商号使用差止等請求訴訟における代表者選任の件を説明し、右三月一一日に、臨時社員総会を適法に開催の上、成子を訴訟の代表者に選任した。

四  請求原因に対する認否

1  請求原因1について

(一) 同(一)について

(1) 同(1)ないし(4)について

原告の主張は、請求債権の発生原因を特定していないから、主張自体失当である。

これらの債権は、会社と取締役との問での契約に基づくものであるが、取締役会の承認を得ていないから、有限会社法三〇条の定めにより無効である。

なお、別表記載の金額が総勘定元帳(甲一七号証)の記載に基づくものであることは認める。

(2) 同(5)について

否認する。被告は本訴において、原告主張のとおりの賃貸借契約が締結されたことを認めた(ただし、期間の定めはないとした。)が、右自白を撤回する。原告は、被告との間で、右賃貸借契約の主張をしない旨合意したにもかかわらず、原告が右主張を維持することは信義に反する。

これらの債権は、会社と取締役との間での契約に基づくものであるが、取締役会の承認を得ていないから、有限会社法三〇条の定めにより無効である。

賃貸期間を千鶴の一代限りとする契約は、賃貸借ではなく、使用貸借であるから、賃料は発生しない。課税上の理由から賃貸借契約としたにすぎない。

また、右契約は、借家法の強行規定に反するから無効である。

(二) 同(二)について

同(1)ないし(3)は認め、(4)は争う。

2  請求原因2について

(一) 同(一)、(二)の事実は認める。同(三)の主張は争う。

(二) 「三田」は被告の姓であり、藤会館は単なる普通名詞である。被告は、原告の営業と混同させる目的もない。

被告が登記した各商号は被告が三田家代々の紋章などを参考にして千鶴と相談の上、考え出したものである。したがって、これらの商号に関する権利は被告の単独、又は被告と千鶴との準共有に係るものである。仮に千鶴の単独所有としても被告は被相続人の遺産に対する寄与分として被告に帰属する。原告は、千鶴から、事実上、その使用を認められているだけにすぎない。

被告が、これらの商号を登記したのは、第三者がこれを登記することによって、被告又は千鶴の商号権が無に帰するのを防ぐためであり、原告と混同させる目的はないから、原告の主張には理由がない。

五  抗弁

1  調停の成立(賃料債権について)

原告と被告との間では、平成六年一月一八日、東京簡易裁判所平成五年ユ第六三号地代請求調停事件において、別紙物件目録記載の土地及びその地上建物(本件ビル)に関し、本条項に定めるほか何らの債権債務のないことを相互に確認する旨の調停が成立した。したがって、原告の被告に対する賃料債権は消滅した。

2  相互契約(全債権について)

(一) 被告、千鶴、成子、三田芳彦、三田孝幸は、昭和四八年九月、相互契約書(甲第三五号証)に基づく契約を締結した。その第七条は、「ビルが竣工し、テナントが入居して賃料収入が計上し得る状態に至ったとき、原告は月額賃料総収入金額の一〇倍に相当する資金を捻出し、小山成子、三田芳彦、三田孝幸、千鶴、被告の順で同人らに出資し、その使用に委ねる。この出資金は返還することを要しない。」と定められている。

(二) 右月額賃料合計額は一五〇〇万円を下らない。

(三) 千鶴は、原告に対し、右合意に基づいて権利を行使をしたものであり、原告の各支払は、右権利行使によって生じたものであるから、返還を要しない。

(四) 仮に、各支払が右権利行使によるものと解されない場合には、被告は、その相続分に応じて、右相互契約上の権利を行使し、これと原告の主張する債権とを相殺する。

3  権利濫用(全債権について)

原告は、同族会社である。他の相続人は、原告に対する債務を弁済済みであるとしているが、原告は利益を過剰に内部留保して被告を含む社員に利益配当することなく、被告を取締役の地位から追い出し、被告に対し役員報酬を与えず、他の相続人である取締役のみに役員報酬を支払ってきた。そして、他の相続人は、右支払金によって、原告に対する債務を弁済したことにしている。このような状況において、原告は、被告に対してのみ訴訟を提起しているのであるから、原告の訴え提起は、権利の濫用に当たる。

4  消滅時効

本件訴えの提起から五年以上遡る債権については、商事消滅時効の完成により債権は消滅した。

原告は、千鶴が債務を承認している旨主張するが、原告の各決算期の報告書には千鶴の真実の署名押印がないから、右報告書の作成により千鶴が債務を承認したことにはならない。

六  抗弁に対する認否

1  抗弁1(調停の成立)について

被告主張に係る調停が成立したことは認める。その余の事実は否認する。千鶴の原告に対する賃料債務は、右調停条項の対象になっていない。

右調停事件は、被告が本件土地上の原告所有に係る本件ビルの地代に関して申し立てたもので、千鶴が原告に対して負担している債務は当然その前提になっていなかったし、右債務が調停の席上で話題になったこともない。

2  抗弁2(相互契約)について

被告主張に係る相互契約が成立したことは認めるが、その余は否認する。

原告の千鶴に対する各支払が、相互契約書七条にいう原告の千鶴に対する出資金でないことは、原告の各会計帳簿の処理状況(甲一八ないし三四)から明白である。

また、同条においては、原告から出資を受けられる順序が定められているところ、千鶴より先順位の者が出資金を受領していないのであるから、千鶴がこの規定による主張をすることはできない。

3  抗弁3(権利濫用)について

否認する。

4  抗弁4(消滅時効)について

否認する。原告の千鶴に対する債権は、同人死亡時(平成三年一一月一二日)まで貸付け、返済により増減を繰り返している。しかも、千鶴は、死亡時まで原告の代表取締役の地位にあり、各決算報告書作成に直接関与し、その内容を自己の債務も含めて承認している。

七  再抗弁(抗弁2について)

1  相互契約の解除

本件相互契約は、本件ビル建築に際し、千鶴と原告、被告を含むその推定相続人が全員協力して本件ビルを建築し、全員が原告の社員持分を均等に保持し(二条)、取締役に就任して(三条)、会社を運営することを目的として締結された。そして、全員が信義に従い、誠実に協力しあうことが不可欠の前提条件であった(一条)。しかし、本件ビル建築資金(着工前の諸整理資金一億円、建築総工費六億円)を銀行から借り入れることが必要になった際、被告を除く他の全員は、共有に係る本件ビル敷地等の担保提供を履行をしたが、被告だけはこれを拒否した。その結果、千鶴らは大変怒り、本件ビル竣工後の昭和五一年には、約束を守らない被告に対し、交換による士地所有権持分移転登記手続請求訴訟を提起するに至った。このように、被告が担保を堤供したり、連帯保証をすることを拒否するなど非協調的な態度を示したことは、信義誠実義務に反した債務不履行であり、これにより、昭和五九年三月ころまでに、本件相互契約全体が債務不履行により解除された。したがって、その後は、千鶴を始め各当事者は誰も右契約七条を根拠に権利行使をすることはできない。

2  消滅時効

本件相互契約の成立は昭和四八年九月であり、その第七条にいう「ビルが竣工し、テナントが入居して賃料収入が計上し得る状態に至ったとき」から本件訴訟の提起まで既に二〇年以上が経過している。仮に相互契約上の出資請求権が千鶴ないし被告に発生したとしても、原告は消滅時効を援用する。

八  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1(相互契約の解除)について

否認する。

本件ビルの建築は、千鶴の独断によるものである。また、相互契約は全員の合意で成立したものであるから、右契約を解除する場合も、全員一致の合意に基づかなければならず、原告の主張する解除は効力を有しない。

2  再抗弁2(消滅時効)について

争う。被告の出資請求権が消滅時効により消滅した場合であっても、民法五〇八条の規定により、相殺に供することができる。

理由

一  本案前の答弁について

甲一(原告の商業登記簿謄本)によれば、成子が原告の代表取締役であること(平成五年四月二五日就任)は明らかであり、したがって、本件訴訟が代表取締役の意思によらずに提起された訴えである旨の被告の主張は失当である(なお、弁論の全趣旨によれば、被告は自ら、原告に対し、その代表者を成子として、複数の訴訟を提起していること、被告は、平成三年六月二八日から平成七年六月三日まで原告の取締役の地位にあり、この間原告の取締役会及び社員総会に出席したが、成子の地位について異議を述べていないことが認められ、これらの経緯によれば、被告が、前記理由により、本件訴えの適法性を争うことは失当というべきである。)。

また、甲二、三によれば、平成七年二月二六日に原告の第六〇回取締役会が開かれ、そこで、同年三月一一日に臨時社員総会を召集すること、右総会で、被告に対する貸付金返還及び商号使用差止等請求訴訟における代表者選任の件を決議事項とすることが決定されたこと、右同日に、臨時社員総会が開催され、成子が右訴訟の代表者に選任されたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。したがって、有限会社法二七条の二所定の手続を欠いている旨の被告の主張は理由がない。

二  請求原因について

1  請求原因1(請求の趣旨一項関係)について

(一)  同(一)(原告の千鶴に対する債権)について

(1) 同(1)ないし(4)について、甲六、一七ないし三四(枝番号省略、以下同様)及び弁論の全趣旨によれば、原告主張どおりの各事実が認められる。

被告は、右債権は有限会社法三〇条により無効である旨主張する。しかし、同条は、会社の利益を保護する趣旨で設けられた規定であり、会社側である原告のみが無効を主張できると解すべきであるから、被告の主張は理由がない。その他、被告はるる主張するが、いずれも理由がない。

(2) 同(5)について、被告は、当初、原告が千鶴に対し、昭和五〇年九月ころ、本件ビルの七階部分の一部を、賃料を月額二〇万円として、貸し渡した事実について自白したが、その後、右自白を撤回した。しかし、本件全証拠によっても、右自白が真実に反することを認めることはできないので、右自白の撤回は許されない(なお、被告は、自白を撤回した理由として、原告との間で右賃貸借契約の主張を維持しない旨合意した点を挙げるが、かかる合意を認めるに足りる証拠もない。)。したがって、原告主張どおりの事実を認めることができる。

これに対し、被告は、賃貸期間を千鶴の一代限りとする契約は使用貸借であるから賃料は発生せず、また、このような契約は借家法に反し無効である旨主張するが、賃料を月額二〇万円とする合意が含まれる以上、右契約が使用貸借であるとはいえないし、仮に借家法違反があったとしても、右期間の定めが無効になるにすぎないから、被告の右主張は理由がない。有限会社法三〇条についての被告の主張は、前記(1)に示したとおり失当である。

(二)  同(二)(千鶴の死亡)について

同(1)ないし(3)の事実は当事者間に争いがない。したがって、原告は、同(4)のとおり、被告に対する債権を取得した。

2  請求原因2(請求の趣旨二項、三項関係)について

原告が営業表示として「赤坂三田ビル藤会館」及び「三田ビル藤会館」の各商号を使用してその営業を行っており、その商号は広く認識されていること、被告が、東京地方法務局港出張所において平成六年七月二五日付をもつて「赤坂三田ビル藤会館」及び「三田ビル藤会館」の商号の登記手続をしたことは、当事者間に争いがない。右事実に照らすならば、被告が、右各商号を使用して、貸しビル業など原告と同一又は類似の業務を営み、これにより、原告の営業と混同を生じさせるおそれがあることは明らかである。したがって、不正競争防止法三条、二条一項一号に基づく商号使用の差止めと右登記の抹消登記手続の請求は理由がある。

三  抗弁について

1  抗弁1(調停の成立)について

甲一四によれば、平成六年一月一八日、被告を申立人とし、原告を相手方とする東京簡易裁判所平成五年ユ第六三号地代請求調停事件において、調停が成立したこと、その調停条項の第五項には、「相手方と申立人・・・は、別紙物件目録記載(一)、(二)の土地、および同地上建物に関し、本調停条項に定めるほか何等の債権債務のないことを相互に確認する」との定めがあること、調停条項の別紙物件目録には、本件土地をその対象にしていることが認められる。これによれば、右調停成立日において、原告、被告間においては、本件土地上の本件ビルに関し、右調停条項に定めた以外には、一切の債務がないことが確定したというべきである。原告が主張する被告に対する賃料請求債権は右調停成立以前のものであるから、右調停成立により消滅した。よって、被告の抗弁1の主張は採用することができる。

これに対し、原告は、右賃料債権は、調停における精算条項の対象とされていない旨主張するが、右調停条項の文言によれば、本件ビルについての右賃料債権が対象とされていることは明らかであるら、この点の原告の主張は失当である。

2  抗弁2(相互契約)について

被告、千鶴、成子、三田芳彦及び三田孝幸が、昭和四八年九月、本件土地上に原告名義でビルを建設することに関する相互契約を締結したこと、その第七条に、「ビルが竣工し、テナントが入居して賃料収入が計上し得る状態に至ったとき、原告は月額賃料総収入金額の一〇倍に相当する資金を捻出し、小山成子、三田芳彦、三田孝幸、千鶴、被告の順で同人らに出資し、その使用に委ねる。この出資金は返還することを要しない。」との定めがあることは、当事者間に争いがない。

被告は、原告の千鶴に対する支払は、右相互契約により生じたものであるから返還を要せず、そうでなくとも、被告は右相互契約の権利の行使により、相殺する旨主張する。被告の主張は、必ずしも趣旨が明らかではない。

前記のとおり、原告の千鶴に対する支払は、貸金、立替金及び仮払金に基づくものであり、これらは、右相互契約所定の返還を要しない出資金に当たらないことは明らかであるので、被告のこの点の主張は失当である。

また、右相互契約七条においては、原告から出資を受けられる順序が定められているところ、千鶴より先順位の者が出資金を受領したことを認めるに足りる証拠はなく、被告のこの点の主張も理由がない(なお、甲三五、乙一四及び弁論の全趣旨によれば、前記相互契約により、千鶴、被告、三田孝幸、三田芳彦、成子は、誠実に協力して本件土地上に原告の名義で本件ビルを建築することを前提に、右五名が全員原告の取締役となり、右五名が原告から支払を受けること等を一旦合意したこと、しかし、本件ビルの建築のための資金の調達について右五名の間で争いが発生し、昭和五一年には、千鶴、三田芳彦、三田孝幸が、被告に対し、土地所有権持分移転登記手続請求訴訟を提起するに至り、その他にも、被告と被告を除く四名との訴訟が多数係属したことが認められ、右のような事情によれば、遅くとも本訴が礎起されたころまでには、右相互契約は、当事者間の合意により、解消したものと解するのが相当である。被告の相殺の主張は、この点からも理由がないというべきである。)。

3  抗弁3(権利濫用)について

被告は、被告に対してのみ、原告の取締役の地位を失わせたり、取締役報酬を与えなかったりしていることに照らせば、被告に対し、本件訴訟を提起したことは、権利の濫用に当たる旨主張する。しかし、本件全証拠によっても、被告を相手として本件訴訟を提起した原告の行為が権利の濫用に該当することを窺わせる事情は認められない。被告の抗弁3の主張は失当である。

4  抗弁4(消滅時効)について

甲一、甲六、一八ないし三四によれば、千鶴は、同人が死亡する平成三年一一月一二日まで、原告の取締役に就任していたこと、原告は、各決算期に決算報告書を作成し、右決算書には、原告の千鶴に対する債権として、請求原因1(一)(1)ないし(4)のとおり記帳されていたことが認められる。右事実によれば、千鶴は、同人が死亡した平成三年当時、請求原因1(一)(1)ないし(4)のとおりの債務を承認していたものと推認することができ、したがって、消滅時効は完成していない。被告の抗弁4の主張は失当である。

四  よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 沖中康人)

Sheet1

貸付金推移表 事業年度毎年3月~翌年2月

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Sheet1

S49年度別貸付金内訳書

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Sheet1

S50年度別貸付金内訳書

S50年度別貸付金内訳書

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Sheet1

S51年度別貸付金内訳書

S51年度別貸付金内訳書

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Sheet1

S52年度別貸付金内訳書

S52年度別貸付金内訳書

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Sheet1

S53年度別貸付金内訳書

S53年度別貸付金内訳書

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Sheet1

S54年度別貸付金内訳書

S54年度別貸付金内訳書

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Sheet1

S55年度別貸付金内訳書

S55年度別貸付金内訳書

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Sheet1

S56年度別貸付金内訳書

S56年度別貸付金内訳書

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S57年度別貸付金内訳書

S57年度別貸付金内訳書

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Sheet1

S58年度別貸付金内訳書

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Sheet1

S59年度別貸付金内訳書

S59年度別貸付金内訳書

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Sheet1

S60年度別貸付金内訳書

S60年度別貸付金内訳書

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Sheet1

S61年度別貸付金内訳書

S61年度別貸付金内訳書

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Sheet1

S62年度別貸付金内訳書

S62年度別貸付金内訳書

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Sheet1

S63年度別貸付金内訳書

S63年度別貸付金内訳書

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Sheet1

H1年度別貸付金内訳書

H1年度別貸付金内訳書

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Sheet1

H2年度別貸付金内訳書

H2年度別貸付金内訳書

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Sheet1

H3年度別貸付金内訳書

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Sheet1

未収入金の内訳

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Sheet1

立替金明細書1

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Sheet1

立替金明細書2

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物件目録

一、所在 東京都港区赤坂二丁目

地番 一四二九番二

地目 宅地

地積 一九二・七六m2

二、所在 右同所

地番 一四二九番八

地目 宅地

地積 二七七・六八m2

三、所在 東京都港区赤坂二丁目一四二九番地八、一四二九番地二家屋番号 一四二九番八の二

種類 店舗・事務所・居宅

構造 鉄筋鉄骨コンクリート鉄筋コンクリート造陸屋根地下二階付七階建

床面積 壱階 参〇九・〇参m2

弐階 参弐〇・八壱m2

参階 参壱六・八五m2

四階 参壱六・八五m2

五階 参壱六・八五m2

六階 参壱六・八五m2

七階 壱九参・弐七m2

地下壱階 参四四・弐四m2

地下弐階 参四弐・八七m2

平成一一年(モ)第六六三七号

更正決定

東京都港区赤坂二丁目一四番三三号

原告 有限会社赤坂ふじや

右代表者代表取締役 小山成子

右訴訟代理人弁護士 新居和夫

東京都新宿区若葉一丁目二〇番地

被告 三田兼孝

右訴訟代理人弁護士 伊藤次男

右当事者間の平成七年(ワ)第七〇七〇号不正競争行為差止等請求事件について、平成一一年五月一四日言渡された判決中、明白な誤謬があるから、当裁判所は

原告の申立により次のとおり決定する。

主文

主文、事実及び理由中、「東京地方法務局港出張所」とあるのを「東京法務局港出張所」と更正する。

平成一一年五月二五日

東京地方裁判所民事第二九部

裁判長裁判官 飯村敏明

裁判官 八木貴美子

裁判官 沖中康人

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
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